2022年上半期の暗号資産(仮想通貨)市場の振り返りと次の半減期について
TradingViewの暗号資産時価総額のチャートを参照すると2021年末の最高価格から最大70%以上下落し、約200兆円の価値を喪失しています。2022年5月のLUNAショックからネガティブニュースが絶えない暗号資産市場ですが、なぜ暗号資産が下落しているのか、今後どうなっていくのかをマクロ的視点から紐解いていきます。
市場サイクルについて
経済は基本的に‟金融相場→業績相場→逆金融相場→逆業績相場”という流れで循環しています。2020年から2022年にかけては‟金融緩和”、‟ドル安”、‟株高”の金融相場でした。
金融相場ではインフレ率が中央銀行が目標とする数値を割り込んだ際に、中央銀行が金利を引き下げたり量的緩和策を実施し、その結果市場にお金が溢れます。この量的緩和期間では米ドル等の安全資産からリスクアセットの株や暗号資産に資金が流入しやすくなります。
現在の世界市場は逆金融相場であり、その特徴としては‟金融引き締め”、‟ドル高”、‟株安”といった要素があげられます。
これは景気の過熱感(インフレ率の超過)を抑えるために米中央銀行が金利を引き上げ、その結果利回りが高く安全資産である米ドルが買われ、リスクアセットから資金が流出します。
暗号資産はハイリスクアセット
暗号資産市場の高騰で一部暗号資産への盲信的な主張を見かけるようになりました。我々東京トークンはブロックチェーン技術がもたらす未来の可能性を信じていますが、取引される市場においては暗号資産はハイリスク、ハイリターンなアセットであることを理解しておかなければいけません。
なぜなら‟お金”は人々のリスク許容度によってローリスクアセットからハイリスクアセットへ段階的に流れやすくなるからです。
暗号資産のビットコインは金(ゴールド)のように供給が限定的なため、デジタルゴールドと呼ばれることがあります。金はその希少性の高さから金本位制が生まれるなど高い価値を認められてきたアセットで、「有事の金」と呼ばれるほどに価値の保存手段として適していています。
一方で似た性質をもつビットコインが価値の保存手段としてみなされていないのは、金と比べると歴史が浅く、現状ではリスクやファンダメンタルズが不明確であるためです。たとえ投資家が金と同じ目的で保有しても、投機的な売買とみなされてしまう可能性があり説明責任を果たすのが難しい点が金とは異なります。
金とビットコインが似た希少性を有しているのは事実ですが、その希少性がどこまで世間に認められているかバイアスをかけずに客観的に理解することが大切です。
暗号資産高騰の背景にはふたつの要因がある
2020年から2022年にかけて世界経済は金融相場でした。コロナショックによって収縮した需要を回復するため各国は金融緩和を行い、この金融緩和により市場に溢れたお金はローリスクアセットからハイリスクアセットへと流入しました。そこにBTCの半減期が被りビットコインの供給量が減り価格が上昇、多くの投機筋が参入で暴騰。これが2020年から2022年までに起こった出来事です。
これはなにも暗号資産だけで起きた話ではありません。株や金といったその他のアセットもこの時期に最高値を更新しました。
(画像:各金融資産のATH)tradingviewより筆者作成
相場は上昇と下落を繰り返す
市場というのは売り買いで成り立っています。買われたアセットはいずれ売られるのです。ハイリスクなアセットクラスではこれが顕著に現れます。
価格が上昇し買い圧力に限界が来ると価格は下落し始めます。価格が下落しはじめると利益確定の動きが生まれ、売りが売りを呼び価格はどんどん下落していくのです。
では、なぜ今回の暗号資産の価格が下落してしまったのかその経緯を解説します。
暗号資産市場のベア相場のはじまり
きっかけは2022年1月5日のFOMC(連邦公開市場委員会)で、FRBは急激なインフレを抑えるべく突如タカ派(金融引き締めに前向きな姿勢)的な意向を示しました。
その影響を受け暗号資産市場は徐々に下落を始めます。1月21日に米国株が下落したことによってそれと連動するように暗号資産も下落、この時点で最高価格から−50%となりました。
この下落をきっかけとしてさまざまな影響が暗号資産業界に及びました。
LUNA SHOCK
金融引き締めによる暗号資産市場の下落に拍車をかけたのが2022年5月7日に起こったLUNAショックです。
2022年5月7日、米ドルとペッグしていたアルゴリズム型ステーブルコインUSTのディペッグが発生し、その価格が保てなくなりました。ボラティリティの激しい暗号資産の中で安全資産とされていたUSTのディペッグは暗号資産界隈のみならず、金融業界全体にも衝撃を与えました。
この影響によりほぼ無価値になってしまったLUNAやUSTを担保にしていたポジションの精算や、暗号資産そのものへの信用不信を加速させてしまう結果となりました。
大手VCやCEXの崩壊
世界最大の暗号資産貸付プラットフォーム「Celsius」が‟極端な市場環境”を理由に2022年6月13日に送出金の全てを停止しました。
暗号資産のレンディングは基本的にかなり高い利回りで運用することができ、LUNAショックを皮切りにこういった高利回りのレンディングに不信感が漂っていました。世界最大のレンディングプラットフォームの出金停止により投資家たちの不信感をより煽る結果となってしまいました。
またBlockFiというレンディングプラットフォームはレバレッジをかけたハイリスクなポジションを組んでいた3AC(Three Arrows Capital)のポジション清算を受け、信用不安に陥りました。
度重なるトラブルによるアナウンスメント効果
今回の金融引き締めによる暗号資産市場下落を受けて、巨大PJや大手VC、CEXの構造的問題が露見し、暗号資産全体の信用を失う形となりました。これによって、他の暗号資産も影響を受けるのではないかという市場の不安により必要以上に売り込まれた可能性があります。
例としてステーブルコインUSTの崩壊後、全く構造の違うステーブルコインUSDTが売られる事態が発生しました。USDTは100%以上の裏付け資産を保有していると表明していて、USTと比べるとディペッグのリスクは低いですが、投資家の恐怖心理から売られる事態へと発展しました。
一般投資家からは暗号資産は危険なものとして再認識され、このような層に投資を広げるためにも投資家が安全に利用できるための規制が必要かもしれません。
暗号資産のベア相場はいつ大底を迎えるのか?
さまざまな分析がありますが、どこが大底になるのかは誰にもわかりません。現在暗号資産はNASDAQ総合指数との相関係数が0.8と非常に高水準で、NASDAQやS&P500といった株価指数が回復しないと暗号資産市場の上昇は見込めないかもしれません。
株価は金融政策の影響を色濃く反映するため、同様に暗号資産市場も今後を探るには金融政策に注目する必要があるのです。
FRBの各参加者は年末にかけて政策金利が3%後半まで上昇すると予想しています。その目的は非常に高いインフレ率を2%に抑えることです。金融緩和の合図がマーケットにプラスに働くとすれば、今後我々は米国の金融政策やCPI(消費者物価指数)、米雇用統計などを注視する必要がありそうです。
次回半減期は最高値更新となるか
BTCは半減期という約4年周期で採掘できるBTCの量が半減するシステムがあり、半減期がくると価格が暴騰するというマーケットアノマリー(過去に基づく経験則)が存在します。
これまで2012年、2016年、2020年と半減期を迎え、その後おおよそ半年から1年半のばらつきをえて最高値を更新しています。BinanceAcademyのビットコイン半減期カウントダウンによると、次回の半減期は2024年と予想されていますが、果たして次回もアノマリー通りの高騰は起きるのでしょうか?
これには懐疑的な目線を持つ必要があるでしょう。現在BTCは大企業から国までもが保有する資産となりました。そのため出来高は昔とは比べ物にならないほど多くなり、ボラティリティも年々低くなっています。このためアノマリー通りの数十倍の暴騰は起こらない可能性は十分考えられます。
また世界の経済動向も把握する必要があるでしょう。今後米国の金利が高水準を維持する場合、暗号資産に資金が流入しない可能性があります。
一方で次回の半減期に金融緩和が重なり、高騰を招く可能性も考えられます。
まとめ
さまざまな要因が伴って下落している暗号資産市場ですが、今回の暗号資産の価格の下落によって、未成熟なアルゴリズムの崩壊やCEX、VCの破綻など、暗号資産市場が堅調だったからこそ成り立っていた構造が崩壊しました。
これは一見ネガティブですが、市場の高騰によって生まれた未成熟なプロジェクトが淘汰され、急騰前の市場に戻っただけであり、市場の健全な発展を考えるとむしろプラスに捉えるべきです。BinanceのCEO‟CZ氏”も「暗号資産の冬はビジネスにとって必要だ」と発言をしています。
現在の経済活動は収縮傾向にあり、リセッションなどのさまざまな懸念が見受けられますが、健全な暗号資産市場発展のためには今回の下落は必要不可欠であったと考えるべきでしょう。
※本記事は情報提供を目的としており、いかなる投資も促すものではありません。