DAO(自律分散型組織/Decentralized Autonomous Organization)とは、同じ目的を持つ人々が地理的に分散しつつ、各々が自律的に振る舞うことにより、特定の所有者・管理者が存在せずとも、事業を推進できる組織を指します。
DAOの主な特徴は次の3点です。本記事では、DAOの定義と類型、事例についてまとめました。今はまだDAOは身近な存在ではありませんが、今後DAOのような組織が増えていく可能性は高く、今のうちにDAOに関する知見を養っておくといいでしょう。
DAO=自律分散型組織と聞いても、一体どのような組織かイメージが湧きづらいと思います。DAOはややバズワード化してきているため、世の中にはさまざまなDAOの定義が存在しており、どれが正しいDAOの定義なのか見定めることは難しいです。ここでは原点に立ち返り、Ethereum創業者であるVitalik Buterin氏が2014年に提唱したDAOの定義を見ていきましょう。
(DAOs, DACs, DAs and More: An Incomplete Terminology Guide より筆者作成)
上図は同氏が2014年に示したDAOの概略図を参考に筆者が作成したものです。DAOの特徴としては次のふたつがあります。
ここでのセンターとは「意思決定」、エッジとは「具体的な作業」と読み替えていいでしょう。つまり、DAOでは意思決定はアルゴリズムに基づいて行われ、それにより生じる具体的な作業は人間が担当します。DAOといっても全ての活動が自動化されるわけではないのです。
DAOでは、参加者による具体的な作業がコントリビューション(貢献)として評価されて、トークンによるリワードを受け取ることができます。コントリビューションの形は非常にさまざまで、既存のパラダイムでは評価されなかった強みが活かせる局面も多々あるでしょう。将来的には、複数のDAOを行き来するような流動性のある働き方で、自分の好きなこと、得意なことで生計を立てる人々が現れることになるはずです。
米国の暗号資産取引所Coinbaseの元最高技術責任者であるBalaji Srinivasan氏は、権限分散の観点からDAOを3つに分類しています。
① Autonomous DAO(自律的なDAO):管理者や最高責任者が存在せず、スマートコントラクト上で真に自走する
② Bureaucratic DAO(官僚主義的なDAO):複数の意思決定者が存在する
③ CEO DAO(最高責任者が存在するDAO):1人の明確な意思決定者が存在する
https://twitter.com/balajis/status/1494244523983081475?s=20&t=q7XdV4LB-JdyZS2bjQn1Xxg より意訳
①〜③のうちどの類型が正しいかを考えることに意味はありません。それぞれのDAOが置かれたコンテクストによって、どのDAOの類型がフィットするのか変化するからです。例えば、迅速な意思決定が必要なら①ではなく③が優れているでしょう。一方、より民主的な意思決定が必要なら③ではなく①が魅力的に映るかもしれません。
デジタルガレージ社のチーフアーキテクトとしてweb3関連事業の開発に関わる傍ら、千葉工業大学が設立した変革センターの所長を務めるなど、多彩な活動を展開する伊藤穰一氏が主導するDAO「Henkaku」では、金銭的な価値のないHENKAKUを発行し、コミュニティのメンバーシップや、プロポーサルへの投票、プロジェクトマネジメントをしています。HENKAKU BARというリアルイベントでは、DAOの会員証でもあるHENKAKU Membership NFTを認証として活用しました。
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Web黎明期から実業家として活動してきた伊藤穰一氏は、Web3.0の雰囲気はインターネットが登場したときのそれに似ていると言及しています。これは一般の人々がテクノロジーにより自由を獲得できるかもしれないからでしょう。「Henkaku」では、多様性を重視してさまざまなメンバーが自分の好きなことで貢献できるようなDAOを目指し、たくさんの実験を行っています。日本発のDAOとして「Henkaku」はこれから注目すべきDAOのひとつだといえるでしょう。
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ここまでDAOについて述べてきましたが、DAOが直ちにこれまでの組織をディスラプトして、マスアダプションすることは難しいでしょう。それはユーザー体験の問題かもしれませんし、DAOを支える技術もまだ成熟しているとはいえず、理論としても確立していないからです。しかしDAOとは意思決定の民主化であり、既存の組織と共存しながら少しずつ世の中に浸透していくことは確からしいといえます。