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コラム

DeSci(Decentralized Science)が今一番ホットな理由と解決すべき科学の課題とは。

DeSci(分散型科学/Decentralize Science)とは、さまざまな課題を抱える現代の科学システムに対するオープンでグローバルな代替案です。科学者が資金を調達したり、実験データを共有したり、洞察を深めることを可能にし、オープンサイエンスの考え方を拡張します。本記事では、DeSciが注目されている背景やDeSciが解決する課題を中心に事例を交えながら解説します。

なぜDeSci(Decentralized Science)が注目されているのか。

DeSciがここ最近になり注目されるようになったのは、世界最大級のベンチャーキャピタルであるa16z(Andreessen Horowitz)と権威ある科学雑誌『Nature』が、神経科学者であるSarah Hamburg博士のDeSciに関する 記事 を2022年2月に公開したことがきっかけです。国内でも日本経済新聞がDeSciについての 記事 を2022年6月に掲載し、にわかに注目が集まっています。

DeSciが話題になる理由は科学領域における以下の3つの課題を、解決するムーブメントであると期待されているからです。

  1. 研究者の評価が学術出版社に大きく依存している
  2. 研究者が多くの時間を資金調達のために浪費している
  3. 研究者が査読(ピアレビュー)をしても経済的メリットがない

研究者が論文を発表して評価を受けるためには、権威のある学術出版誌にお金を払って論文を掲載しなくてはなりません。論文を掲載するためには数名のレフェリーと呼ばれる研究者の査読を通過しなくてはなりませんが、レフェリーには学術出版社から報酬が支払われません。研究者の評価は論文を掲載する学術出版誌のインパクトファクター(IF/掲載論文の1年あたりの平均引用回数)と呼ばれる指標に大きく依存しています。つまり、学術出版社に資金と権力が集中しているのが現状です。

研究者が公的な資金のみで研究を結実させることは難しく、彼らは日々グラント(競争的資金)を得るための提案資料の作成に多くの時間を割いています。本来であれば、査読による報酬が研究者に支払われるべきですが、そのような構造にはなっていません。このように研究者の時間が資金調達に多く割かれている状況では、科学の発展にとって大きなマイナスであることは間違いありません。

DeSciでは1〜3の問題を解決するため、暗号資産やブロックチェーンの技術を活用しようとするものです。

DeSci(Decentralized Science)とオープンサイエンスの違い

学術出版社が一人勝ちしているような現在の状況を打破しようと起きたムーブメントのひとつに「オープンサイエンス」があります。オープンサイエンスは、1991年にスタートした arXiv(アーカイブ) をはじめとする査読前の論文を掲載するプレプリント・サーバーを活用することで、公共財である科学の知見をよりオープンにする動きです。

しかしながら、プレプリント・サーバーに公開される論文は、研究者による査読を経ていないため、有象無象の論文が乱立しそれら一つひとつの質を担保することが難しいという課題に直面しました。

DeSciでは、オープンサイエンスの考え方を基軸としつつも、トークンエコノミーの考え方を取り入れることで、研究者が論文を査読するインセンティブ設計の構築を試みています。例えばスマートコントラクトを活用して、一定の期限内に研究者が論文の査読を完了した場合にトークンを付与し、未完了の場合には他の研究者に査読をする権利を移すという仕組みを構築できます。また論文をいくつかのNFTに分割して、NFTの購入者が論文を読むことができるようにすれば、研究者は論文の公開によりマネタイズが可能です。

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DeSci(Decentralized Science)のユースケース

ここまでDeSciが注目されている背景、オープンサイエンスとの違いについて解説してきましたが、具体的なユースケースについてはあまり触れてきませんでした。ここではDeSciのユースケースを6つに分類して、DeSciが科学のどの部分を変革するのかイメージを持ちやすくします。

研究の協力者を募る新しい方法

今までは研究の初期段階でプロジェクトに協力してもらうためには、契約職員を雇うか、学生にほとんど無償で手伝ってもらうかのどちらかが主でした。しかしプロジェクトをDAO(分散型組織)のように運営することによって、プロジェクトの初期に参加した人々ほどプロジェクトが成功したときにトークンでの報酬が多くなるように設計できます。すると、プロジェクトの初期に協力者を集めやすくなり、研究に必要なマンパワーを確保することができます。

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透明で柔軟なインセンティブ構造

DeSciでは、プロジェクトへの貢献に対してトークンやNFTを付与することで、インセンティブを設けることができます。インセンティブの濃淡を、コミュニティにおけるガバナンスによって決定できるようにすると、透明かつ柔軟なインセンティブ設計を構築することが可能です。するとプロジェクトが成功すればするほど協力者への報酬は多くなるので、プロジェクトをサポートする動機づけが強く働き、プロジェクト推進の動力が生まれます、

分散型メタデータストレージ

ブロックチェーンは、耐改ざん性がありゼロダウンタイムの分散型データベースです。そのためブロックチェーン上に、研究および論文のメタデータを記録し公開するようにすれば、真正性の高いデータ管理を行えます。これによって、データを追跡しやすくなり研究者がさまざまなデータにアクセスして研究に活かすことで、科学の発展に寄与します。

検証済みの調査対象の扱い

世の中の研究の多くが、失敗した実験のデータを表に出さずに成功した実験のデータのみ公開しています。しかし失敗した実験のデータから新しい発見の種が見つかるケースも多くあります。トークンやNFTを用いて実験データなどの検証済みの調査対象も公開するインセンティブを生み出すことで、世の中に広く知見を共有して科学全体の発展にプラスの影響を与えます。

論文(DOI /Digital Object Identifier)と研究者固有のID管理

ブロックチェーンは、前述したように耐改ざん性のある分散型データベースであるため、論文(DOI/Digital Object Identifier)および研究者固有のIDを一元管理するのに役立ちます。これによって、研究者の実績の一貫性をブロックチェーン上で証明することができるので、経歴詐称や誇大報告などの研究者の不正を防ぎ、真摯に研究に取り組んできた研究者が報われるようなシステムを生み出すことができます。

研究資金を調達する新しい手段

DeSciのユースケースとして、一番インパクトが大きいのが研究の資金調達です。似たようなケースとして、学術クラウドファンディングプラットフォームがいくつか立ち上がっていますが、これらは一時的に資金を調達するには適していますが、継続的に資金を調達するような仕組みにはなっていません。DeSciが作るトークンエコノミーでは、プロジェクトへの貢献やプロジェクトの成否によって、協力者の報酬が変化するため、長期間にわたる研究においても継続的に資金を調達し続ける手段となり得ます。

DeSci(Decentralize Science)の事例

事例1:Molecule(モレキュール)

Molecule は医薬品領域での新しい資金調達の形を実現するDeSciプロジェクトです。患者である一般市民や研究者、それから投資家が同じコミュニティに属して資金を出し合うことで特定の技術を共同で所有します。これまで250以上のプロジェクトがMoleculeのプロトコルを利用して累計10億円以上の資金調達を行っています。

研究レベルと商業レベルのモノづくりには死の谷ともいうべき大きな断絶があり、それを埋めることができないから世の中に技術が出回らないというケースは往々にしてあります。今までの研究者は、公的な資金へ応募して特許を持ち会社を作り投資家から資金を調達して株式にするという流れで研究に必要な予算を賄っていました。

この方法だと、エコシステムでのキープレイヤーがフェーズごとに変化しさまざまな煩雑な手続きが生まれ、研究者は時間と労力を無駄にしていました。しかしMoleculeの仕組みでは、ひとつのコミュニティの中で資金調達を完結することができるため、このような手間を省くことができるだけではなく、初期に参画するメンバーほど報酬を多く受け取ることができるようになります。したがって、長くてお金のかかる医薬品の開発であっても、優秀な人が初期から協力してもらえる仕組みを作りやすくなります。

事例2:Decentralized Science(ディセントラライズドサイエンス)

論文の査読に課題があることはこれまでも述べてきましたが、 Decentralized Science というDeSciプロジェクトでは、これをトークンエコノミーにのせることで解決策を示しています。具体的には、学術出版社を中抜きしてピアトゥピアで研究者同志が協力するためにスマートコントラクトを活用しています。

Decentralized Scienceでは、研究者の査読のデータをブロックチェーン上に蓄積して、スコアリングすることで論文の質の担保に勾配をつけることを可能にします。つまり、きちんとピアレビューする研究者は多くの報酬を得ることができるし、そうではない研究者にはそもそも査読(ピアレビュー)のオファーがこないという動的なシステムを構築することができます。いわば属人的な従来の査読にデジタルのメスを入れるということです。

【考察】DeSci(Decentralized Science)は普及するか。

DeSciが科学の世界を民主化するためには、現在の研究者の評価が学術出版社のスキームに依存している状況を打破する必要があります。そのためには、ブロックチェーン技術を活用したトークンを活用することで、インパクトファクターに依存しない評価制度を確立する必要があります。当然、学術出版社には利権があるため変化が急激に生まれることは難しいですが、DeSciのムーブメントが活発になることで遅かれ早かれディスラプションが起こると予想できます。そうなれば研究者の働き方もより流動的になり、研究機関に所属しない独立研究者(フリーランス)も多く生まれてくるでしょう。

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